半信半疑

休み明けの今日は、朝から大変でした。
勤務先に着き、玄関の扉を開けると、利用者のOさんが、玄関先に立ってます。
家に帰らせての一点張りです。
それで、気分転換を図ろうと、一旦事務所に荷物を置いて、
「さぁOさん。
散歩に出かけましょう。」と、声かけをして、外に出ました。
Oさんは、かなり帰宅願望の強い方ですが、天気のいい日に散歩に出かけたところ、5分もしない内に息切れを起こして、散歩を切り上げたことがありました。
それで、あまり深く考えずに、
「散歩に出かけましょう。」と、声掛けしたのです。
ところが今回は、一人でサッサと歩き始められ、なかなか途中で立ち止まられないんです。
このまま歩いて行かれると、帰り道が大変になると思い、
「Oさん。
もうそろそろ帰りましょう。」と、声掛けをしたところ、
「私は、一人で家に帰るのだから、あなたはついて来なくていいわよ。」と、帰ること拒否されて、背の低い樹木に縋り付いて、手を離そうとされずに、大きな声で、
「助けて。誰か助けて。」叫ばれるのです。
近くには幼稚園があり、ちょうどママさんたちが、子供達を幼稚園に送って来られる時間帯だったものですから、不審に思われてしまいました。
最初のうちは、植木にしがみついて立っておられましたが、途中から地面に座り込んでまったく動こうとされないので、我慢比べです。
何とか植木から手を離して、身体を持ち上げて、歩き始めました。
ところが、力一杯暴れられるので、本当に途中で投げ出したくなりました。
助けてと叫ばれるので、通りかかった人が不審に思い近付いて来らたので、Oさんを抱きかかえながら、事情を説明しました。
なんかこちらが悪いことをしているような感じです。
そんなこんなでやっと裏口までたどりつき、事務所の中にいる同僚に外から呼びかけましたが、まったく反応がありません。
運良く通りがかった人に、玄関の呼びんリンを鳴らして、中の職員の呼び出しをお願いしましたが、運悪く中の職員は、他の利用者さんの介助を行っている模様で、なかなか出てきません。
やっと裏口の扉が開いた時には、正直ほっとしました。
それで、すぐにOさんを事務所の中に入ってもらいました。
90歳をすぎた本当に小柄な女性なので、何かあったとしても一人で対応できるだろうと思ったことを後悔しました。
火事場の馬鹿力とは、よく聞きますが、本当に人間いざというときには、潜在能力を発揮するものだということを再認識しました。

それから、Oさんは、他の利用者さんに、
「見知らぬ男性に連行されて、車の中に入れられて、どこか連れ去られそうになった。」と、自分の身に起こった悲劇を、周りの方達に報告してます。
「Oさん、それは勘違いですよ。
Oさんが、散歩している最中に、道端に倒れられたので、通りがかりの人が助けてくれたんですよ。
覚えていないですか。
「覚えていないんですね。
それはOさんが悪いのではなく、病気のせいですからね。」と説明しましたが、半信半疑で聞いておられました。