昔話

終業時間が過ぎ、帰り支度を始めたところ、昨日のOさんが、
「兄さん。(利用者さんからは、60歳に近い私でも、こう呼ばれるんです。大半の利用者さんは、両親より年上ですから…)
電話貸してよ。
息子に迎えに来てもらいたいから。」との訴えがありました。
「Oさんは、今日はお泊りですから、帰れないですよ。」と、説明します。
この訴えに対して、説明をするのは、もう何回目だろう。
説明した時は、一応納得された顔をされるのですが、ほんの5分も経たないのに、さっきと同じ訴えをされます。
それで、同じ説明をまるで壊れたレコード(この表現は古いですね)のように繰り返します。
今日は、少し様子が違って、
「なんだか、回りに知っている人がいなくて、一人ぼっちで寂しいのよ。
だから、家族に会いたいから、家に帰りたいのよ。」と、素の心情を話されるのです。
「Oさん、1人じゃないですよ。
回りを見てくださいよ、お仲間がいるでしょう。
Oさんの隣のWさんと一緒に家に送った事もあるんですよ。」と、説明をしたところ、
「覚えてない。」との回答でした。
それから、Oさんは、昔話を始められました。
小学校の時に母親をなくしたとき、弟はまだ小学校入学前で、祖父母から子守に専念して、小学校を休めと言われたそうです。
しかし、Oさんは、小学校を休みたくないので、小さな弟を小学校に連れて行ったそうです。
授業中は、弟を机の横に座らせて、帳面と筆記具を渡して絵を描かせたり、味噌をたっぷり塗ったオニギリを弁当に持って行ったところ、妙に今日は大人しいなぁと思ったら、そのオニギリを食べていたんだとか。
Oさんの昔話、どこまで事実かどうかはわかりませんが、Oさんの記憶の中では真実なんだと思います。