さよなら 2

1975年5月。
男は、高校時代から親元を離れて、自力で生きてきた。
大学も、何とか合格して、田舎を後にして東京で1人暮らしを始めた。
男は、日々の生活費を稼ぐ為に、高校時代からやっていた喫茶店のアルバイト先見つけ、働き始めた。
男の通っていた学校は、当時では既に下火になっていた学生運動の残り火が残っている大学だったおかげで、休講になることが多かった。
ある日、女がウェイトレスのアルバイトを応募してきた。
女は、痩せぎすで小柄で決して可愛いとはいえなかった。
茶店のマスターも、女の採用に二の足を踏んでいた。
男は、その女に何か引きつけられるものを感じ、喫茶店のマスターに採用の助言をして、何とかマスターの首を立てに振らせた。
女は、まめまめしくウェイトレスの仕事をこなした。
男と女は、最初ぎこちない会話であった。
1975年6月。
1ヶ月が経過する頃には、男と女は、恋人同士の仲になった。
女が、アルバイトを始めたのは、夏期休暇に仲のよい女友達と旅行するための費用を作るのが目的だと、楽しそうに話した。
「女同士二人では、ちょっと物騒なんじゃない。
俺が、ガードマンでついて行こうか。」と男は冗談半分で言った。
「そんなことに巻き込まれるわけないじゃない。」と、女は気丈に言い返してきた。
1975年7月。
女は、旅行費用もなんとか出来たので、友達二人で旅行に行くといって、本当に楽しそうに出掛けて行った。
男は、東京駅まで送っていこうかと言った。
が、女は「友達の手前遠慮しとく。」と見送りを断った。
旅行から帰ってくる予定日に、女から男に何の連絡も入ってこなかった。
翌日も、その翌日も。
心配になった男は、マスターに女の住所を教えてもらい、その場所に出掛けた。
既に、女の部屋は、片付けられ空き部屋になっていた。
男は、その下宿屋の不動産屋に、女の行き先を聞き出そうとした。
不動産屋は、「彼女とどういう関係かわからない人間に、一切教えることは出来ない。」の一点張り。
男は、マスターに女の履歴書を見せてもらい、実家先に出かけた。
実家先に訪問した男は、出てきた女の母親に、面会を頼むも、「娘がどうしても逢いたくないから、帰ってください。」
男は、「東京から、彼女に逢いたくて来たんだから、逢わせてもらえませんか。」と食い下がった。
女の母親も、しぶしぶ家の中に入っていった。
今まで見たこともない強張った顔をして女が出て来て、母親に
「近くの公園に行ってくる。」と言い、そのままスタスタと歩き始めた。
男は、女の後をついていく。
女からは取り付く島もないほどのオーラが出ていた。
公園には誰もいなかった。
女は、ブランコに腰掛け、旅行先で起こった出来事を淡々と語り始めた。
最後に女は、「だからもう、学校も止めて、こっちで暮らすことに決めたの。」と、有無を言わせぬ決断に、男は何もこたえる言葉が見つからなかった。
男は、女とその公園で別れ、東京行きの電車に乗り込んだ。
電車から見る風景は、涙で滲んで、男には見えなかった。
にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 オヤジ日記ブログ 50代オヤジへ
にほんブログ村