さよなら 3

2009年夏。
男は、夏休暇で家族を連れ、3年ぶりの里帰りをした。
狭い町だから、自転車で1時間も走れば、町の端から端まで通り抜けてしまう。
久しぶりに帰った故郷、墓参りの帰りにちょっと寄り道して、「柿の木あるお寺」に行ってみることにした。
そのお寺は、原田知世の主演映画の舞台にもなった寺だ。
男の両親と家族は、こんな炎天下の中、寄り道なんかしたくないと自宅へと帰っていった。
長い階段を上がると、階段の途中に柿の木があり、男は「柿の木のあるお寺」と称した。
階段を上りきると、そこ京都の清水寺を模した(当然縮小版)舞台があるお寺である。
今から40年以上の昔、男が高校時代に、当時付き合っていた同級生を自宅に送っていく途中に1度だけ立ち寄ったことがある思い出の場所なのだ。
だが、そのお寺は、その男だけではなく、他の高校生カップルにとっても秘密のデート場所でもあった。
当時、男が通っていた高校(男女共学)では、フォークギターを抱えて歌えば、女子高生に注目される時代だった。
そして、男はその時代にうまく乗っていた。
だが、その男は、あまり女性に興味を示さなかった。
小学校卒業の時にクラス内の同級生が書く寄せ書きに、男が憧れていた同級生が書いた「デレデレすんな。」の一言が、その男にとってトラウマとなったのだ。
中学と入学と同時に、男は家族以外の女性と話すことが出来なかったのだ。
高校2年の秋。
修学旅行の2週間前に、男はフォークギター仲間の男から、
「実は、お前に気のある子が3人いるんだけれど、どの子がいいか?」と持ちかけられた。
その仲間が付き合っている同級生を通じて、その男に打診するように頼まれたみたいなのだ。
男にとっては、全くの初耳。
だが、その中の1人に気になる子がいたので、3人の中では彼女かな。」と答えた。
修学旅行先は、長野経由の東京。
修学旅行専用列車が出ており、第1夜は列車の中。


2日目が鬼押出近くのホテルだった。
男は、先ほどのフォークギター仲間から呼び出しを受け、連いていくと、旅館の踊り場に仲間の付き合っている同級生と、男が好意をもっている彼女が待っていた。
それから、男はその彼女と踊り場に階段に腰掛、消灯時間が来るまで話した。
その翌日からは、男は機会があれば、彼女と一緒にいた。
その男と女のように、この修学旅行中、今まで学校内のどこに潜んでいたんだろうと思われるカップルが大量発生する場面を見ることがあった。
その修学旅行が終り、しばらくして男は、さきほどの女の部活が終わるのを待ち、一緒に帰ることにした。
そして、二人は冒頭のお寺に行ったのだ。
ところが、女はその日は風が強くて、スカートと時計のことが気になってうまく会話が進まなかった。
別れ際になって、女は男に
「あなたは、私が想像していた人と違った。
 だからもう、交際はやめよう。」
その後、クラスはそのまま持ち上がりとなり、男にとっては苦痛な毎日となり。
若くして、十二指腸と胃潰瘍になってしまった。
その時、男が自作した歌が、

   柿ノ木のあるお寺
 君と二人で上った柿の木あるお寺
 お寺に着くと君は 悪戯な風とスカートを押さえ
 君は時計のことばかり気にしてるみたい
 
 君と二人で見た夕焼けはもう想い出だね
 君と二人で見た夕焼けはもう想い出だね

男は、当時流行っていた加藤和彦きたやまおさむの「あの素晴らしい愛をもう一度が」が流れてくると、こんな歌を作って歌っていた頃を思い出すのだった。
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