途中下車(代々木公園駅)

 いつもは、都内の地下を地下鉄で通り抜けていくだけなのだが、週2度の定時帰りの時は、途中下車をすることがある。
 地上から這い出た時は、まるで穴倉から這い出したモグラのような気持ちだ。
 今日は、千代田線「代々木公園駅」で下車して、明治神宮方面へ向かって歩き出した。
 リクルートスーツ姿の新入社員と思われる男女のカップルが、話しながら坂を下りてくる。
 すれ違いざまに聞こえた会話で、
 「やはり、新入社員だったか。」と納得する。
 代々木公園を黙ったまま、急ぎ足で突き抜けていくサラリーマンやOL。
 ベンチに腰掛けた初老の男性2人、煙草をくゆらせながら、何か話しているが、話内容は聞き取れない。
 歩道橋の下では、男性4人のグループが、のダンス練習が続いている。
 日本ぽくない風景である。
 かつて、この地には、代々木の森と言われた時代があった、終戦後には進駐軍ベースキャンプがあった、東京オリンピックの時には選手村があったとのことである。
 それから、ジャニーズ誕生の地でもあったとのことである。
 そのどの時代にも、私は全く関わりはない。
 私がこの公園と関わりをもったのは、学生時代からだ。
 その当時、この公園で繰り広げられた数々の甘く切ないも恥ずかしい思い出がある。
 そんなことを考えながら、私は、ケヤキ並木歩きながら頭上を通り過ぎてゆく5月の風の音を聞く。
 ほんの一駅を歩くだけで、いつもとは違う気持ちになれる。
 そんな帰り道でした。