チーズの目 43 公園にて

 今日は、朝から雨が降っている。
 僕は、いつもの指定席で身体を丸くして、ここの家のパパが図書館から借りてきたコレッリさんの「ヴァイオリンソナタ集」を聞いている。
 これは、ブログに書かれていた楽曲だって、演奏者は書かれていたものとは違うけど。

 今回は、僕がカットに行っていたときに、ここの家のパパの日記を書いてみようかな。
 「予約の本が準備できました。」っていう隣町の図書館からのメールで、ここの家のパパは自転車に乗って隣町の図書館へ行った。
 図書館で予約した本を借り出し、そのままUターンしようとしたんだけど、あの日はとっても天気がよかったし、折角隣町まで来たから、少し寄り道をしようと、水元公園まで足を伸ばしたんだって。
 その公園には、ここの家のパパが、自転車の鍵をなくす前までに、僕も何度か連れて行ってもらったことがある公園なんだ。
 その公園のパンフレットによると、都内唯一の水郷公園で開園面積が87.9haの広さなんだって。
 正式に開園となったのは、昭和40年4月、戦後一時期農地として解放となったこともあるんだって。
 で、ここの家のパパが、その公園に着いた時には、もうたくさんの人が陽気につられて来ていたって。
 水郷近くで釣りをする親子連れ。
 木陰の緑地の中でテントを立てビニールシートを敷いて昼寝をしている人。
 自転車で園内をサイクリングしている親子づれやアベック。
 ベンチに座って読書をする人、バナナを食べる老夫婦。
 男性は丸齧り、女性は小さくちぎって口に入れる。
 なんて、たくさんの人が思い通りの休日を楽しんでいるんだろうって。

 ここの家のパパは、自転車で軽く園内を一周。
 そして、水郷近くの榎の木陰の木製のベンチに座って、水郷を見ていたんだって。
 水郷の向こう岸には、柳の木が等間隔に植えられ、バックはところどころ建物の頭頂部分が顔を出しているけれどほとんど緑の木立と青い空。
 緑の木立の中には、歩いている人、自転車に乗っている人。
 そして、こちら岸は一瞬たりとも静寂になることはないんだって。
 だけれども、耳につく程の音でもないんだって。
 それで、軽く目を閉じて、その音を聴いてみたんだって。
 自転車が小石を踏んで通り過ぎて行く音。
 靴が地面をゆっくり踏みしめながら通り過ぎて行く音。
 自転車に乗っている人たちの会話の声・・・日本語、中国語・・・。
 遠くで鐘の音が心地よく鳴り響いてくる音。
   
 突然、
 「ハルナちゃん。」と大きな女の子の声。
 「なーに。」と遠くから聞こえてくる小さな女の子の声。
 「ハチがいるよ。」って、さっきの大きな声の女の子がする。
 子ども自転車が近づき、通り過ぎてゆく音。
 「ああ、やっと着いた。なに?」って、軽く息せき切った小さな女の子の声。
 「ここに、ハチがいるよ。幼稚園にあるフジ(藤)と一緒。」

 今度は、犬の喘ぎ声と2台の自転車の音が近づいてきた。
 目を開けて見ると、通り過ぎてゆくダックスフンドは、舌をだしながら「ハァ、ハァ」と短い足を忙しなく、自転車を引っ張るように走りすぎて行った。
 隣のベンチでは、同年代の男性二人が、ラジオを聞いているのかと思ったら、携帯電話で野球中継を見ながら、世間話を続けている。

 遠くで、「おかあさん。」って泣きながら言っている小さな男の声が聞こえてきた。
 なんかとりとめのない日記になっちゃったけれど、これが都内の公園の一こま。
 でも、本当にのどかで平和な時間が流れているんだって・・・。