チーズの目 42

 今日は、昨日とはうって変わって曇天。
 空は、一面の雲に覆われている。
 今朝の僕の散歩相手は、ここの家のママだった。
 ここの家のパパは、珍しく朝早くからどこかへ出かけるみたい。
 僕たちが、散歩から帰ってくると、すぐにここの家のパパは出て行った。
 それから、ここの家のママが出かけ前の洗濯干しをすれば、久しぶりに僕1人留守番だ。
 今日は、ここの家のパパは、どこへ行ったんだろう?

 夕方近くになって、ここの家のパパが帰って来た。
 今にも雨が降りそうな空模様、ここの家のパパは、すぐに洗濯物の取り込みを始めた。
 洗濯物をたたみ終えたら、ここの家のパパは、またいつものようにカタカタと音を立てている。
 30分くらいカタカタと音を立てていた。
 ここの家のママが帰ってきたので、ここの家のパパは、音を立てるのを止めた。
 でも、その前から僕は、「早く散歩に連れて行ってくれ」って催促していたんだけれどね。
 そこに、ここの家のママが帰ってきたから、僕たちは夕方の散歩へと出かけたんだ。
 外は、今にも泣き出しそうな空模様だったけれど、いつもどおりのコースを辿るみたい。
 ダックスフンドのおばあさんの話をした時の階段の3軒手前の家の前にある並んだ植木鉢付近は、僕のいつものマーキング場所なんだ。
 そして今日もいつものように、そこでマーキングをしようとしてたら、そこの住人のおばさんに出くわしちゃったんだ。
 てっきり怒られるのかと内心ビクビクもんだったんだけれど、そのおばさんが、僕をみおろしながら、
 「お散歩いいねぇ。」って僕に話し掛けてきたんだ。
 「きっと犬のにおいがするんだろうねぇ。
 2年前まで飼ってたんだけれど、死んじゃってねぇ。
 45年飼ってたから。」って言ったら、ここの家のパパは、ビックリ声で、
 「えっ、45年も飼ってたんですか?」って、そのおばさんに聞いた。
 「1匹じゃないよ。
 いろいろな犬を飼ってたんですよ。
 亡くなっちゃ次々と飼って、犬との生活を45年間していたからねぇ。」
 おばさんのその説明を聞いて、ここの家のパパも納得していた。
 だってどう考えたって、45年間も生きた犬なんているわけないじゃないか。
 それこそギネスもんだと思うんだけれど。
 そのあとに、ぽつりとおばさんが言った言葉で、なんだか胸が少し苦しくなったんだ。
 それはね、
 「本当はまた犬を飼いたいんだけれど、私たちの年が年だからねぇ。」って、複雑な顔でおばさんは言ったんだ。