チーズの目 19

 わっ、外を見てビックリ。
 何だあの白い塊は、雪?
 もう、4月なかばだというのに雪が降るのは、僕が生まれて初めての経験だ。
 だから、寒いわけだ。
 でも、薄日がさしはじめてきた。
 「ねぇ、朝の散歩につれていってほしい。」と、リビングのドアーの横の壁伝いに立ち上がってアピールをする。
 「じゃ、散歩に行くか。」って、ここの家のパパが僕の首輪にリードつけ、玄関を開けたとたんに冷たい風が、入ってきた。
 その風は、僕の外に出て行く気持ちも一緒に家の中に持ち込んでしまった。
 だから、僕ももう今日の散歩は止めようと思い、玄関の中に退避。
 それなのに、ここの家のパパは、ガタガタと震えている僕を抱き上げて、外に出て行く。
 「わぁ、風が冷たい。うぅっ、家の中に入りたい。」という僕の気持ちを無視して、ここの家のパパは散歩を続行。
 そうして、僕は雪の解けた水浸しの道に降ろされる。
 寒いけれど、いつもの習慣はおそろしいもので、小走りを続けていたら、寒さにも慣れてきた。
 そして、いつものようにマーキングを始める。
 途中で、ネコ君に逢う。
 自由気ままなネコ君は、僕を見て塀の上に跳びあがって、去っていった。
 ネコ君のあの見事な跳躍力には、いつも感心させられる。
 僕がどんなにがんばってもあの高い塀の上に跳びあがるなんて、絶対無理だ。
 この前ちょっと遠い公園に行ったとき、歩道より少し低く石垣(僕の身長よりやや高さがある)で囲まれた草っぱらの中で走り回っているときのこと、その石垣の間に後足を入れながら、一生懸命石垣をよじ登り、やっと石垣の上の歩道に立ったとき、ここの家のパパがびっくりしていたけれど、僕にできる事といえばそれぐらいで、あのネコ君のような跳躍力があれば、もっとかっこよく歩道に上がれたんだけど・・・。
 向こうから小さなチワワ君が、同伴の人を引きずるようにやって来た。
 なんて失礼な犬なんだ。
 身体は僕よりずっと小さいのに、僕に対して吠えてくる。
 僕は、呆気に取られて、ちょっと立ちすくんでしまったが、態勢を立て直し、その後は背筋を伸ばして見下ろしていた。
 同伴の人は、「すいませんね。」って、ここの家のパパに言って、そのチワワ君を引きずっていった。
 めったに上なんて見る事はないんだけれど、ふと見上げると、明るさのある白い雲の隙間から青空が少し見えた。
 「さぁ、帰ろう。」といっても、散歩の場合、往路と復路ってあるのかな?

 僕が午睡をしていると、ここの家のパパが掃除機を使い始めた。
 なぜだか、僕は、この家に来た時から、あの音を聞くと虫唾が走り、部屋の中を逃げ回ってしまう。
 だが、最近はよっぽど近くにこなければ逃げ回ることもなくなったけれど・・・。
 「ねぇ、夕方の散歩に連れて行ってよ。」