チーズの目 7

 今日は、空一面雲が覆い、まったく青い空は見えない。
 でも、外はそんなに寒くはないみたいだ。
 昨日は、とっても晴れていたからなのか、ここの家のパパは、僕を1時間くらいの散歩に連れ出してくれた。
 家を出て大きな道を消防署の方へ向かい、いつもならそのままこの交差点を突っ切るんだけれど、今日はその交差点を右折。
 そこから下り坂が続くんだ。
 晴れて雲のない日は、この坂の途中から富士山が見える。
 「この10年間で高い建物が建ったので、本当に富士山が見えにくくなったわねぇ。
 ○○ちゃん(ここの家の長男)が保育所に通っている時は、冬の晴れた日には富士山がよく見えたのにねぇ。」って、ここの家のママが前言っていたあの坂だ。
 そして、坂を下りきったところの道の反対側は少し小高い崖になっていて、その崖の前の家に桜の木が3本立っている。
 ここの桜は、いま満開で道行くドライバーや歩行者の目を楽しませてくれるみたい。
 ただ、僕たち犬の視線は、人間よりかなり低い所にあるのと、大体僕たちは下を向いて臭いを求めて歩くから、視線の上なんて見ることはないんだ。
 ここの家のパパが僕を抱き上げて、
 「ほら、チーズ桜が満開だ。」って見せてくれたから、僕にも見えたってことなんだ。
 それから、歩いていくと大きな家具デパートの入口前で交通整理をしている制服をきたおばさんが、僕を手招きして、
 「かわいい犬ですね。オスですか。」って、ここの家のパパに聞く。
 「ええ、そうです。」と、いつものボソリ声。
 「うちも犬を飼っているんですよ。よく手入れがされてますねぇ。」
 だけど、この時の僕は、いつものように、この制服のおばさんに飛び掛っていかなかったから、ここ家のパパは不思議そうに僕を見る。
 僕だって、誰彼なしに飛び掛るわけじゃなくて、僕と同じくらいの大きさの犬を連れている人に、可愛がってもらおうとその同伴者にアピールしてるだけなんだ。
 ここの家のパパは、その制服のおばさんに軽く会釈して、その場を立ち去った。
 少し歩くと大きな道にぶつかり、今度はその道を沿いに東京方面へ歩き出した。 そのままトンネルを抜けて、前に書いたように東京方面に行くのかなと思うと。 今日は違うみたい。
 トンネル手前の交差点で、信号が変わるの待つ。
 その信号待ちの間、僕は
「でも、いつもこの国道沿いを歩くと思うんだけれど、すごい車の数だね。毎日こんなに沢山の車が、県外に出たり、入ってきたりしているのか、この車が出す排気ガスって、すごいものだよね。
 この排気ガスが、環境によくないんじゃないかなぁ。
 でも、自動車がないと僕は遠出に連れて行ってもらえなくなる、あっそれも困る。
 わぁ、なんかいい方法ってないのかなぁ。」 なんて、考えながら。
 信号が変わったので、駆けてその交差点を渡る。
 そして、この道も坂道になっているんだけれど、狭い歩道を下っていく。
 でも、コンクリート沿いの壁だと僕もあまり興味がなくサッサと歩く。
 そして、僕は結構歩くのが早いみたいで、ここの家の人と散歩するとき、僕の首輪のせいでなかなか前に進めず、立ち止まるってことがよくある。
 首輪が僕の首を締めるのは、それだけじゃなくて、僕が、つい臭いに釣られて全方向に動き回るってことも、原因のひとつかなぁと軽く反省。
 それからここの家のパパは、市街に入る途中の階段を上り始めたんだ。
 でも、僕の方が階段を上るのは早いので、僕のあとからフーフーいいながら、ここの家のパパはのぼってきた。
 階段を上りきったところは、周りが満開の桜の木に囲まれた小さな盆地のような公園だった。
 今日は、晴れていて、少し風があったけれど、土曜日ということもあって、家族連れが花見をしていた。
 そして、そこには僕の仲間の犬たちがいたけれど、顔見知りじゃないので、すこし会釈しておわり。
 ここの家のパパは、階段を上るのに疲れたのか、近くのベンチに座り込む。
 僕は、色々な臭いがするので、全方向に動き回りたいんだけれど、首輪のリードが邪魔で思うように動けない。
 ここの家のパパが、僕を抱き上げて、
 「チーズ見てごらん。桜が満開だ。きれいだろう。」って、桜の花に僕の花を近づけたんだけれど、僕には、桜を愛でる気持ちがわいてこないからそっぽを向いていた。
 すこし、悪いことをしたかなぁと反省。
 でも、今日は、本当にいい天気できもちがいい。
 その公園で、少し休憩して家路へと向かったんだ。