チーズの目 3

 僕は、ここの家の人間がいなくなった後は、ここの家の人が帰ってくるまでの間、一匹ぽっちだ。
その間、何をしているかっていうと、ソファーに置かれた毛布の上で、窓の外をボケッと見ていたり、ほとんどが眠っていたりという時間を過ごしている。
 優雅なひと時のように見えるけれど、僕は、リビングの一室に閉じ込められていて、ほかの部屋へ行くことができない監禁状態なのだ。
 もっと、犬に自由を!
 だから、退屈になると、監禁された空間の中にある木製の机の足とか、テーブルの上に、ここのパパが放置した分厚い本を齧ったりして、孤独感を紛らわせているのだ。
 結構これが、おもしろくて、ついつい本気で齧ってい、あとでこの家の人に怒られてしまうことになるんだけれど、やめられない。
 本に関していえば、ここのパパもその後学習したのか、最近は放置しなくなった。
 でも、僕が齧った本は、どこかの図書館から借りてきていたものらしく、図書館に電話して、「犬が齧ってしまったんですが、こういう場合は、弁償しなくちゃいけないんですか。」て聞いていたみたい。
 結局、現品を図書館に持っていったら、「現品弁償して下さい。」と言われたみたいで、インターネットで齧った本と同じ古本を注文していたみたい。
 だから、僕の齧った本は、机の本棚に3冊きちんと保管されている。
 分厚い本だったから、結構値段が張ったみたい。
 机の足の方は、足と足の間にある支え棒は、既に跡形もなくなってしまい、かなりの労力を費やした僕の芸術作品は、今はこの部屋には存在しない。
 だから、いまある椅子は、非常に座るのに不安定なんだけれど、ここのパパは、その椅子に座って本を読んでいる。
 それから監禁状態と言ったけれど、他の部屋に行けないのは、僕の習性でつい所かまわずマーキングしてしまうので、立入禁止状態とも言える。
 僕は僕としての言い分もあることはあるけれど、グッと我慢しておこう。
 あっ、ここのママが帰ってきたみたいだ、これから夕方の散歩でも行ってみるかな。
 今日は、どこへ連れて行ってくれるのかな。
 昨日と違う風景に出会えるかな。
 あれ、昨日はどこを回っただっけなぁ。