1 始まり

 僕の名前は、「チーズ」。
 ここの家に来てから、もう3年が経つ。 
 名前の由来は、僕がマルチーズだから。
 命名者はここの家の次女で、僕が、この家に来ることになった仲介者でもある。
 次女の友人から、僕が生まれたことを知り、「誰か育ててくれる人はいないかなぁ」と、相談を持ちかけられ、もともと動物好きの次女が、ママに「犬を飼いたいんだけど」と相談したところ、動物好きのママも「うちで飼おう。」ということで、僕がこの家に来る事が決まった。
 この家のパパは、まったく僕が来る事を知らなかったみたいだ。
 その後の、この一家の状況を見ていると、ほとんどこの家のパパは、パパらしいところがなく、大体がママを中心に回っている。
 この家のママが、ここのパパに対して、口癖のように言っている「まったく、何を考えているんだか」本当にそのとおりで、まったくよくわからない人だ。
 しかし、この人が、その後の僕の人生(いや犬生?)にとって、重要性を帯びてくることを、その時はわからなかったけどね。
 いままで僕が見た事、それからこれから僕が、この目で見る事を、ここで書いていこうと思う。
 実際に書くのは、もちろん僕じゃないけれど。
 まぁ、それは、たいした事じゃないと思う。
 
 最近のパパのこと。
 ここの家のパパは、以前までは、朝7時になると、スーツを着て家を出て行っていたけれど、最近は家にばかりいる。
 まぁ、僕にとっては、朝と夕方の散歩に付き合ってもらえるので、非常にありがたいんだけどね。
 そして、ママは、ため息ばかりついて落ち込んでいるかと思うと、突然何かに苛立ちを感じているみたい。
 やっとその理由がわかったんだ。
 なぜって、ここのパパは、本当に何も話さない人だから、自分の早期退職について、まったく家族に相談せずに一人で決めたみたい。
 でも、その前に去年の12月だったかな、会社から早期退職の打診があったことを、家族に直接口では言えず、家族全員にメールで伝えていたみたい。
 ただし文面が、「リストラ対象になった。申し訳ない。」って舌足らずの内容だったみたい。
 子供からは、励ましの回答で、「これから次の就職先みつければいいよ。」だって。
 ここのパパ、その文面を読んで泣いたみたい。
 でも、ママからのメールは「回答が出せないメールなんて!これからどうすんのよ。」とのこと。
 たしかに、パパはもう55歳で、これから就職先なんて見つかるのかな。
 いや、見つけてもらわないと、この家のローンとか残っているし、僕もこのままここに居られるのかもわからない。これからノラ犬になんてなれないし、他の家で飼ってもらえない。
 なんとか、新しい就職先見つけてもらわないと、僕としても困る。
 テレビでも、失業や不況のことばかりで、見通し明るいニュースないみたいだけれど。

 それにしても、最近の天候も、暑くなったかと思ったら、今日みたいに寒くなったり。
 桜の蕾も、すこしづつ開いてきているから、今週末は満開かな。