名もない老人の死

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午後からのセミナー参加のため家を出た。
見上げた空には雲がなく、真っ青です。
容赦なく太陽は、照りつけてくる。
いやぁ、暑い。
首のタオルには、汗が溜まる。
セミナー会場は、駅を越えた先です。
いつもなら、人の多い駅を避けて、別の迂回路を行くんです。
でも、今日は出かける時間が遅くなって、ちょっと近道の駅のコンコース
を利用しました。
コンコースには、市役所の貼り紙が貼ってます
「ここは通路です。
荷物を置いたり、寝転んではいけません。
         ○○市役所道路維持課」
乗車券自動販売機の前の空間には、ポケモン・スタンプラリーのための机が
配置されています。
そこには、子供づれの親子が、スタンプを押してもらおうと集まってます。
机の上には、モニター映像まで流しています。
10年前と相当変わったなぁと感慨を抱きました。

そして、コンコースを渡りきろうとした出口のところに、独りの老人が、左
側を上にして眠っているように見えました。
でも、眠っているにしては、顔や着衣で覆われていない手や泥で汚れた足が、
血の気が失せていて、妙に青白いのです。
それは、今から45年ぐらい前に、突然私の目の前で行き倒れた老人の姿を
思い出させました。
私は、「もしかして」と思っていながら、立ち止まっていると、一人の中年
の男性が駆け寄ってきました。
そして、彼は、老人の手首に指を当て、脈を診ながら首を傾げてます。
今度は、首に指を当て、脈を診ています。
そして、また首を傾げ、再度手首に指を当て脈を診ています。
その間、私も再度その老人の姿を確認しました。
左側の口端にはっきりと断言できませんが、吐血したような痕跡が見えまし
た。
老人の回りには、飲み残しの飲み物と足下にはビニールに包まれた握り飯が
ありました。
中年の男性は、胸ポケットの携帯電話を出しました。
ちょうど、その時、中年の男女が駆け寄ってきました。
女性が、携帯電話を握り締めた中年男性に、
「どうですか?」って聞きました。
「もう亡くなってるみたいですね。」とその中年の男性は答えました。
中年の女性は、ハンカチを口に当てながら、「ああ、やっぱり。」って顔を
してその中年男性の言葉に頷いていました。
私は、その言葉を聞いて、慌ててその老人に向かって合掌をしてしまいまし
た。
脈を診ていた中年の男性は、女性と来た別の男性に、
「交番に通報を。」と言うと、その言葉を受けた男性はすぐに交番へ走って
行きました。
私は、セミナーの時間が迫っていたので、そのまま立ち去ったので、その後
の展開はわかりません。


ただ、セミナーが終り、先ほどの場所にもう一度来てみたところ、先ほど
老人がいた場所は、すでに片付けられ何の跡形も残っていませんでした。
そして、コンコースには、まばらな人でした。
スタンプラリーに参加した母子は、記念写真を撮っています。
改札口前の通路には、たくさんの人が歩いていました。
5人組の若い娘さんは、通路の片すみに群れて、これからどこへ行こうかっ
ていう話をしています。
ほんの1時間半前に、ここに老人の死体が横たわっていたことを知っている
のは、今この通路を歩いている私だけなのでしょうか。



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