故郷の空

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午前中の雨が上がった午後、空には雲ひとつなく太陽は真上から光を放っている。
街中を吹き抜けてきた風は、冷気を含んだ秋の風である。
鉄橋の下のサイクリングロードでは、ロードバイクに乗った人たちが颯爽と川と平行に走っている。
その鉄橋の近くに葛飾橋がある。
その橋の傍の土手の草叢の上に、ジャージの上下を着た一人の中年の男が、胡坐をかいて座っている。
男の膝元には、雑誌が広げられ、傍らにはプルタブが外れた発泡酒が1缶置かれている。
その男は、たまに上半身を左右に揺すり、そして時には前後に動かしながら座っている。
その男の視線の先には、川に架かった鉄橋が見える。
今、その鉄橋の上を、電車が通り過ぎてゆき金町駅方面に消えていった。
今度は、金町駅方面から来た特急電車が、東北方面へと鉄橋に入ってきた。
男は、その特急電車が鉄橋を渡り、松戸方面に遠ざかってゆくのをずっと目で追っている。
その男の目には、微かに光るものが見える。
そうやって、男は太陽が西に傾いてゆくまでその場に座っていた。
男の膝元にあった発泡酒は既に空になったようで、男はその空き缶を持ってすこしよろけながら立ち上がった。
男は、手に持っていた空き缶を橋の袂の草叢の中に無造作に投げ捨てて、草叢から橋に続く短い階段を上った。
そして、男は、ヘッドライトの光の中を、坂道を下って住み慣れた街へと帰って行った。
ヘッドライトで影になった男の後姿は、どこか淋しげであった。
今まで座っていた男の前に広げられた雑誌は、男が飛び出してきた田舎の近くの観光場所の写真であった。



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