江戸川を臨む 2

金町方面から新葛飾橋を渡り、松戸側の堤防から江戸川を臨む。
今日の江戸川の川面は、非常に穏やかで川岸の樹木をまるでゆれる鏡面のように映し出している。
遠くに見える橋は、乳白色の刷毛でサット刷いたように霞んで見える。
現在の鉄道交通が始る前、この国は、川が交通の要であった。
かつて、この川には、高瀬船などが行き交っていたという。
ちょうど今、私が立っている場所は、かつての松戸船着場があったことを記す表札が立っている。
この船着場から、上流に百メートルほど上がったところに、JR駅に続く交差点がある。
その交差点を、駅に向かって少し歩くと、左側に高い建物に挟まれて、ひっそりと佇む小さな森がある。
その森の脇道を通り抜けた所の左手に、水神社と掲げらた神社がある。
小さな森だと思ったのは、水神社の守だった。
その神社の蓮向かいには、浄土宗の親縁山来迎寺(らいこうじ)がある。
このお寺は、慶長14年(1609年)創建のお寺で小金東漸寺(あじさい寺)の末寺である。
ここが、今回私が読んだ乙川優三郎さんの「さざなみ情話」の女主人公が、よくお参りに訪れていた場所である。
この一角だけは、回りの建物がなければ、江戸時代にすっとタイムスリップできそうな場所である。
この小説には、時代背景について明確な記載はないが、きっと江戸時代だろう。
かつて、この国が、鉄道交通を始める前の舟運時代の物語である。
一方の男主人公は、銚子に住み川運を担う高瀬舟船主、女主人公は越後生まれだが、身売りされて松戸平潟の食売(めしもり)宿の食売(めしもり)女。
物語は、この二人を中心にして描かれていく。
私に印象に残ったのは、この時代特有のこの職業に就いた女性のなんとも言えない息苦しさとそこから這い出せない絶望感だ。
這い出す方法は、抜け駆け・落籍(好きな相手であればいいが)・死亡しかない。
著者は、その希望のもてない日常を女主人公に執拗なほど語らせる。
物語は、主人公二人によるその日常からの脱出を、微かな光を放ちながら終わる。
なぜ、私が、この本を手にしたかというと。
そうなんです。
舞台の一部が、今私が住んでいる町だったからです。
そして、私は、今来た道を戻り、江戸川堤防の上から、この小説の主人公二人が出発した川の下流を見ています。
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