チーズの目 45

 なんだか、ダイアリーが不具合になったみたいだけれど、復帰したみたい。
 
 昨日の午後は、朝方と違ってすごくいい天気になった。
 かなり、風が強かったけれどね。
 ここの家のパパの携帯に、この町の図書館から「予約の本が用意できました。」ってメールが届いたんで、僕の夕方の散歩を兼ねて、この町の図書館まで歩いて行った。
 当然、僕は図書館の中には入れてもらえないので、外のポール(といっても、僕たち専用のものじゃないんだ)に繋がれて、ここの家のパパが用を済ませて出てくるのを待つってことになる。
 この図書館の裏は、小学校に繋がっているんだ。
 その間には、緑色の網ネットが張り巡らされているけどね。
 いまは、もう授業が終わって、校庭で子どもたちが、元気よく遊んでいる。
 このまま、ポールに繋がれたままになることはないとは思ってはいるけれど、でもやっぱり取り残された感じだよね。
 やっと、ここの家のパパが出てきた。
 つい、うれしくなって、飛びついてしまう。
 ポールから解放されると、僕は勢いよく走り出す。
 そのまま、帰るのかなと思ったら、E川の堤防に行くよって、リードを引っ張られた。
 堤防には、やっぱり平日の夕方だから、この前ほどは、出てきていない。
 僕は、サイクリングロード沿いの草むらに顔を埋めて、匂い探しを始める。
 黄色の花の姿は少なくなり、今は白い花に変わった。
 (人間の色覚は、百通りの色調を判別することができるけれど、残念ながら僕たち犬は、二つの色調しか判断できない。
 だから、ほんとうはここに書いてある色については、僕の目では区別できないんだけどね。)
 ただ、ここの家のパパが知っている花の名前は、シロツメ草だけで、あとはわからないんだ。
 川から吹き付けてくる風で川側の堤防の草たちは、なぎ倒されて。
 堤防上のポピーたちは、風の中で乱舞状態になっている。
 東京都と僕たちの町を結ぶ橋に到着。
 わが家を目指して帰ることになったんだけれど、ここまでざっと1時間以上歩いている。
 僕は、少し歩くのに疲れた。
 だから、コンクリートの地面に座り込み、下から少し悲しそうな目で、ここの家のパパを見上げる。
 そうすると、ここの家のパパは、うすうす僕の意図を感じているみたいだけれど、優しく抱き上げてくれて、歩き始めた。
 橋から一端坂を下り、それから坂を上っていくと、国道16号線にぶつかる。
 僕たちは、国道沿いを東京と反対の方向へ歩き始める。
 ここの家のパパの腕が少し疲れたのか(でも、僕の体重なんてたいしたことないと思うんだけれど)、僕を路上に下ろす。
 抱いたままで家に連れて行って欲しいのに・・・。
 トンネルに入った。
 トンネル内の歩道と自転車道は、車道よりかなり高い所にあるんだ。
 でも、このトンネルをひっきりなしに通り抜けていく自動車のエンジン音とその自動車から吐き出される排気ガスはかなりひどいもんだ。
 車に乗っている人は、窓ガラスをピッチリと閉じているから、トンネル内で反響するエンジン音ぐらいが、少し嫌なだけだろう。
 だけれど、毎日この中を徒歩または自転車で通り抜けることを日常にしている人たちは、大変だよね。
 トンネルに入って5メートルぐらいで、僕は、このままこの中を歩き続けることに耐えられなくなった。
 僕の受忍限度をはるかに超えている。
 だから、僕は、抗議の意味を込めて座り込み、また悲しそうな目をしてここの家のパパを見上げた。
 「しかたないなぁ。」とボソッと言って、ここの家のパパは、また僕を抱き上げてくれた。
 トンネルを抜けると信号機があり、丁度いま「赤」。
 ここで、また僕は路面に下ろされた。
 まぁ、ここから家まで20分くらいだから、もう少し頑張って歩いてみるか。
 すると、唐突もなく、ここの家のパパは、鼻歌でサイモンと&ガーファンクルの「コンドルが飛んでいく」を口ずさみ始めた。
 ここの家のパパも、歩くのに疲れてきたのかなぁ。