チーズの目 37

 今日も、「GOOD DAY SUNSHINE」そして暑い。
 昨日も、ここの家のパパとちょっと遠出。
 何年ぶりかで自転車に乗っけてもらって出掛けた。
 ここの家に来た時に、ここの家のパパに自転車に乗っけてもらったことを記憶しているんだけれど・・・。
 「自転車の鍵が見つからない。」っていうひと騒動があって以来、レインカバーに覆われたまんま。
 自転車の鍵が見つかったみたい。
 僕は、自転車の前に取り付けられた買い物カゴの中に入れられてのカゴ旅行。
 けれど、カゴの中って本当に座り心地が悪いし、ガタガタと揺れて安定感がないんだ。
 だから、つい僕は、カゴの中で前足と後ろ足で落ちないように踏ん張てる。
 でも、坂道を下りるときは、僕の全身の毛を風が通り抜けていくのは、快感だね。
 そうやって、途中、歩道を上がったり下りたりの衝撃はあったけれど、無事たどり着いたところは、E川の土手。
 土手上のサイクリングコースで僕は、カゴから下ろされた。
 そして、僕は道端の草むらに鼻を突っ込んでクンクンと匂い探し。
 川上に向かって進むんだけれども、やっぱり犬としての僕の習性から、ついいろんな物に匂い移り(こんな言葉はないと思うけれど、決して目移りじゃないから)して立ち止まったり、引き返したり、それからまら歩き出したりの繰り返しで、ここの家のパパの思うようにはすすまないみたい。
 でも、本当に暑い。
 暑さのせいで、僕の体力は、消耗したみたい。
 で、体力回復を図るために、僕はしばしハァハァと舌を出しながら、草の日陰のアスファルトにうつ伏せになる。
 それを見て、ここの家のパパは、僕専用のペットボトルで水を飲ませてくれた。
 少し飲んでやめた。
 そして、僕はカゴに乗っけてよと、うらめしそうな目で見上げて、ここの家のパパの足にすがりついた。
 僕の気持ちをわかってくれたみたいで、またカゴの中に入れてくれた。
 やっぱり、自転車って早くて遠くまで行けるもんだねぇ。
 サイクリングロードを1キロぐらい進んだ所から、土手の改修工事ってことで、片側通行。
 その片側は、トラックが出入りしている。
 そのまま、片側通行を進んでいたら、行き止まり。
 そこには、ちょっと老体の警備員さんが立っていて、
 「ここからは、一端川岸におりてください。」って、急傾斜の応急手当的に作った簡易な階段を指して、ここの家のパパに言った。
 そして、僕を見ながら、
 「おお、マルチーズだね。」って言った。
 「そうです。」といつものここの家のパパのぶっきらぼうな回答。
 「いやぁ。
  家にも・・・この先のM団地に住んでるんだけれどね、マルチーズがいるんだけど、これが最長老の記録を持っているんだよ。」って本当に嬉しそうに話してくれた。
 「へぇ。いくつなんですか。」って、ここの家のパパには珍しく会話を続けている。
 「今、21歳と10ヶ月。あと2ヶ月で22歳だよ。
  でも最近は、痩せて3キロぐらいかなぁ。
  好きにさせているんだよ。」とちょっと悲しそうな声のひびきだった。それから
 「犬を連れてこの階段を自転車で下りるのは大変だよ。
  どちらか、協力しようか。」って親切な申入れがあったんだけれど、ここの家のパパは、
 「いやぁ。大丈夫ですよ。」って、申入れを断っていた。
 僕は、いつもの癖で階段を駆け下りようとしたら、僕の後ろで金属の触れ合う音と人間が倒れる音が同時に聞こえた。
 ここの家のパパが、自転車と僕とでバランスを崩して、バタンと倒れたみたい。
 「やっぱり。だから、犬をつれて自転車で下りるのは大変だって言ったんだよ。」
 でも、ここの家のパパは、素早く立ち上がり、倒れた自転車を立て直していた。
 「申し訳ありませんでした。」とここの家のパパは謝っていた。
 「じゃぁ、自転車はこちらで下ろしますから、犬を下ろして下さい。」と警備員さんから再度の申入れ。
 今回の申入れには、ここの家のパパも従っていた。
 倒れてぶつけた左の脇腹をさすりながら、ここの家のパパは、僕を抱き上げた。
 すると、丁度前から階段をあがってきた、若い男の人が、倒れた弾みで飛び出していた僕専用のペットボトルをここの家のパパに手渡していた。
 階段を下りて、僕をカゴの中に入れ、ここの家のパパは、舗装されていない石ころ混じりのガタガタ道
を走り出した。
 突然自転車を止め、ここの家のパパは服を捲って左脇腹を見ていた。
 そこには、肋骨の一番下あたりに丸いあざができていた。
 傾きかけた太陽の光を受け川面から反射してくる眩い光の乱舞を見ながら、僕は、
 「もうそろそろ帰ろうよ。」って言ったんだけれど、ここの家のパパには聞こえないのかな?