チーズの目 29

 今日の空は、一面の雲に覆われている。
 昨日の天気予報では、今日の天候は崩れるとは言っていたけれど、昨日の夕焼けで、もしかしたら晴天が続くんじゃないかなぁと期待をしたんだけれど、天気予報どおりの曇りだった。
 それに、寒い。
 一見すると全身毛に覆われて暖かそうに見えると思うんだけれど、実は寒がりや。
 今も、ガタガタと小刻みに周期的に来る震えが、止まらない。
 僕を見ていたここの家のパパは、僕を膝の上に乗っけて両手でゴシゴシと暖めてくるんだけど、周期的に訪れる震えが止まらない。
 ここの家のパパがまたカタカタという音をたてるために立ち上がるその前に、僕は床に飛び降りる。
 そして、いつもの指定席で全身を丸めて軽く眼を瞑っている。
 これが、一番楽だなぁ。
 今流れている音楽は、久しぶりに聴くデストゥルメンツさんの音楽(CDタイトル「BRIDGE THROUGH TIME」)だ。
 なかなか気持ちが落ち着く音楽だね。
 ただ、午前中に聴くというよりも、夜に聴くって雰囲気だと、僕は思うんだけれど。
 まぁ、選択権のない僕には、ここの家のパパが選択した音楽を聴くしかない。

 しかし、最近の天候って、本当に変わりやすい。
 何事にも基本は身体だから、体調管理には何があっても気をつけなくっちゃ。
 
 夕方になって、雨は少しパラつく程度になった。
 だからか、ここの家のパパは外出しそうな気配。
 僕も外出したいんだという意思表示をしたら、散歩に連れて行ってくれそう。
 だけれど、僕用のレインコートを手にぶら下げているのがひどく気になる。
 実は、僕は、あのレインコートを着るのがすごくいやなんだよなぁ。
 とにかく、動きにくいというか歩きにくいんだ。
 でも、外出はしたいしなぁ。
 と思案しながら、ここの家のパパから少し離れたところで座り込んでいると、ここの家のパパは、僕に、「散歩に行くよ。」って声を掛けながら、お散歩3点セット(首輪とリードと僕用の排泄処理袋)を見せびらかすんだ。
 ついに、僕はその誘惑に嵌ってしまい、あの窮屈なレインコートを着る羽目になってしまった。
 見た目は、なんとなくレーサーっぽくアクティブに見えるんだけれど、実は非常に窮屈。
 本当に歩き辛いったらありゃしない。
 ブツブツ文句を言ってても詮ないので、仕方がないから、出かけるか。
 雨の中の散歩の途中で、寒さのせいなのか、身体が震えて仕方ない。
 だから、僕は立ち止まって、ここの家のパパを見上げながら、僕の窮状を訴えたんだ。
 僕の異常な気配を感じたのか、ここの家のパパは、僕を右手で抱き上げ自分の胸で暖めようとしたんだけれど、なにせ雨水と泥でレインコートと僕の足は汚れている。
 さすがに、抱きしめてはくれなかったけれど、僕の身体の震えはここの家のパパの掌から伝わったみたい。
 そうやって、僕はここの家のパパの掌に支えられて空中散歩。
 ゆらゆらとなんだか、いい気持ち。
 最近、このパターンで家に帰ることが増えてきたなぁ。
 僕の作戦を勘づかれたかな。
 でも、今日は本当に身体がガタガタ震えて仕方がないんだからねぇ。
 家に着いたら、ここの家のママが、いつものピアノのお稽古。
 ここの家のパパは、散歩後の僕のお手入れを終わらせて、二階の長男の部屋へ逃げちゃったみたいで、降りて来ない。
 そして、今流れている音楽は、ここの家のママが弾くサザン・オール・スターズさんの「TSUNAMI」です。
 引っかかりながら、前に戻りながら、今日はどのくらいお稽古は続くのだろう?