チーズの目 21

 今日 、珍しくここの家のパパが、朝早くから起き出して出かける準備を始めた。
 今日は、朝早い散歩ができると、僕は背伸びをして出かける準備をしてたんだけれど、単なる僕の希望的観測でしかなかったみたい。
 ここの家のパパは、僕に「バイバイ。」と右手を振って出かけてしまった。
 その後、ここの家のママが起き出して来て、簡単な朝食を取り、いつもの洗濯を始めた。
 それから、ここの家のママは、僕の散歩に付き合ってくれた。
 今日も、いい天気で気持ちがいい。
 朝の散歩から帰ってきて、ここの家のママは、僕の朝食の準備、それから洗濯物を干して、あたふたと出掛けていった。
 本当に、いつものことながら、ここの家のママには頭が下がる。
 午後過ぎに、ここの家の次女が、自分の部屋から出てきて、こちらも簡単な昼食を取り、出かけていった。
 僕は、部屋の中でいつものソファの毛布の上で丸まっていたら、ここの家のパパが帰ってきた。

 「少し早いけれど、散歩に連れて行って欲しい。」と、ここの家のパパの足下に何度もじゃれつく。
 相手にしてもらえなかったけれど、近くに腰を下ろしてズット見上げていたら、やっと動く気配を感じる。
 僕は、すぐに玄関へ向かって駆け出す。
 「今日は、実にいい天気だ。さぁ。いつものコース一回りしようっ。」と僕は、玄関を飛び出す。
 いつもの公園には、幼児連れの若奥さんがいた。
 その幼児が、僕を見て「ワン。ワン」って、母親に言っている。
 「そう、ワンワンね。」って。
 それから、公園を出て一般道を先客の匂いを求めながら、少し小走りで走る。
 途中で茶色のダックスフンド君に出会う。
 僕より身体が小さいから、僕が見下ろすような感じ、彼は僕の鼻に自分の鼻を近づけてきたので、僕は少し後づさり。近づいたり離れたりと繰り返しているうち、飽きちゃったので、僕は遠ざかる。
 大体、いつも僕の方から離れていくことのほうが多いなぁ。
 ちょっと失礼かなと思いながら、その場を立ち去る。
 ぐるっとまわって、先ほどの公園の前で、僕が立ち止まっていたら、丁度学校帰りの小学生の女の子が、ここの家のパパに「こんにちは。」って、ここの家のパパは見知らぬ女の子から声を掛けられ、一瞬ポカンとしていたけれど、「ああ。こんにちは。」って、間の悪い挨拶を返す。
 「可愛い犬ですね。」って、その女の子は、中腰になって僕の頭を撫でてくれた。
 僕も、うれしくなってついその女のこ前で、仰向けに寝転ぶ。
 そうすると、今度は、女の子はポツリポツリと
 「昔、犬を飼っていたんですけれど、マンションに引っ越してきちゃったんで、犬を飼えないんです。」
 「ああ、そうなの。」と、ここの家のパパは、本当に間の抜けた返事をする。
 「それで犬を飼っている人を見ると羨ましくって。」
 「ああ。そう。」
 「今は、お祖父ちゃんのところで飼ってもらってるの。
 本当に、この犬可愛いですね。」って、僕の頭を撫でてくれる。
 「その犬は、大きな犬なの?」って、ここの家のパパは変な質問をする。
 「それは・・・。」って言いながら、その女の子は犬の種類を思い出して
 「それは、ゴールデンレッドリバーです。」って、答えた。
 その時、僕たちの傍を別の犬が通り過ぎてゆくので、僕はすぐその犬を追いかけることにした。でも、ここの家のパパが握っているリードで行く手を遮られて、前に進めない。
 ここの家のパパは、「もう、帰るぞ。」と言って、僕の欲望を封じ込めてしまった。
 
 そして、今僕はここの家のパパが用意してくれた夕食を、VIVALDIの「L’STRO
 ARMONICO(調和の霊性)」を聴きながら立食中です。