チーズの目 10

 前に、ここの家の家族と自動車に乗って、大きな沼のある公園に行った時、僕は大先輩にあたる僕と同じマルチーズ出会ったんだ。
 彼は、13歳だから、相当な先輩だ。
 同伴していたのは、本当に品のいいおばあさんだった。
 その時、僕のリードを握っていたのは、この家のママだった。
 それだから、そのおばあさんが、この家のママにとても気さくに声を掛けてきたんだ。
 僕は、この家のママとそのおばあさんとの話を聞くことになった。
 そのおばあさんは、ここの家のママと初対面なのに、ここの家のママに、
 「年を取るとねぇ、ほんと外に出るのが、億劫になるのよねぇ。
 でも、この子は、ほんと散歩するのが大好きなの。
 それに、他の犬と比べて、よく動き回るのよねぇ。
 お宅の犬もそう。」
 「ええ。」
 「だから、一日一回は必ずこの子を連れて、必ず散歩に出るのよね。
 この子がいなかったら、それこそ外出する気にもならないわよ。」
 「そうなんですか。」
 「そういうもんよ。」
 なんて、その後も、立ち話が続くんだけれど、僕は、僕の大先輩が、このおばあさんにとって、とっても大切なパートナーなんだなっていうことがよくわかった。
 そして、その大先輩は、僕に
 「私にとっても、このおばあさんは大切な人なんだよ。
 お前は、大切にされているか。」って聞くから、
 「今のところは、大切にされているよ。」って、僕は答えた。
 「そうか、それはよかったなぁ。
 実は、この近くに、俺と同じぐらいの年齢の友達がいて、その同伴者も、私の飼主と同じぐらいの年寄りだったんだけどねぇ。
 最近、友達もその同伴者の姿を見ないなぁと思ったら、その同伴者が、亡くなったらしいんだなぁ。
 その友達のところは、その飼主だけで、他の家族が居なかったからなぁ。
 その後の、その友達の消息がわからないんだよ。
 どっか、引っ越したのかなぁ。」と、すこし悲しそうな声で話してくれた。
 もし、その友達と同じようなことが起きたら、僕の場合はどうなるのかな。
 と思ったけれど、僕の場合は、ここの家のパパも、ママも、長女も、次女も、長男がいるから、なんとかなる、そんな根拠のない希望的観測をもって、ここの家のママと僕は、大先輩とその同伴者のおばあさんに別れを告げ、僕の散歩を再開した。