チーズの目 5

 4月1日。
 今日は、人間世界ではエイプリル・フールだって・・・
 僕たち犬にとっては、まったく関係のない話だけどね。
 昨日は久しぶりで遠出した話をしたついでに、いままでに僕が遠出した記憶を思い出してみる。
 この家に来て一番最初に遠出したのも、ここの家のパパとだったような記憶があるけど、犬の記憶だから、あてにはならないか(笑)。
 あれは、夏の暑い日。
 ここの家の長男が、運転免許取得試験を受検する時に、免許センターまでかなり遠いので、ここの家のパパが同伴したときに、僕も一緒に連れて行ってもらったんだ。
 その時は、他の家族は夏休みの旅行に行くというので、ここの家のパパと長男が留守番だった。
 長男の場合は、アルバイトの関係で休暇がとれなかったみたいだけど、ここの家のパパは、僕のために夏休みを取ったみたい。
 ここの家族は、夏と春に家族旅行に行くんだけれど、いつもここのパパは、仲間はずれ。
 というか、ここのパパは、旅行に行きたがらないみたい。
 まぁ、それは置いといて。
 免許センターに着いて、いったん免許センターの中に僕とここの家のパパと長男と入り、長男はそのまま試験会場に行ってしまい、僕とここの家のパパとで冷房の効いたセンターの中で、試験が終わるまで待つことにしたんだけれど、制服を着た係りの女性が、僕たちのところへ来て、
 「ここは、ペット持ち込み禁止なんで、外に出てもらえませんか。」
 と、「僕が、何か悪いことでもしたのか。」
 というような抗弁の余地なく立ち退きを命じられてしまった。
 そういうことで、ここの家の長男の試験が終わるまで、僕とここの家のパパは、免許センターの周りをブラブラと散歩したんだけれど、あの日は本当に暑かったなぁ。
 免許センターの中に、僕とここの家のパパと入ったとき、冷房が効いていてとても快適だったんだけどな。
 だから、免許センターの自動扉の前に、僕は何度も突進するんだけれど、そのたびに、ここの家のパパが握る紐につながった首輪が僕の喉を締め付けるんだ。
 人間っていいよな、あんな冷房の効いた部屋の中で、過ごせるんだから。
 どうして、僕たちは中に入れてもらえないんだ。
 確かに、行儀が悪い犬もいるけど、飼主がきちんとしていれば、僕たちだって、礼儀正しくしているのに。
 無事、長男は試験に合格して、その日に運転免許証を手にして、帰りの運転は、その長男が無事家までたどり着いた。
 本当に、あの日は暑かったなぁ。